広告代理店に勤めて6年経ち、担当商品の広告をひと通り手がけられるようになった頃、ヘッドハンターから「同業他社に移らないか」と声がかかりました。提示された年収は当時の1.7倍。上司にも辞めたいという意向を告げて転職を決め、新しい会社に履歴書も提出したのですが、それを電車の中で眺めていたときにふと、「自分は本当に業界内でステップアップしたいのか」という思いにかられたんですね。履歴書には学生時代の居酒屋バイトのことも書いたのですが、改めてそれを見ていて「いつかは店を持ちたい」という当時の夢を思い出したんです。
わざわざ会社を辞めるならやっぱり好きなことをしたい!そう思ったらもう広告業界に残る気はきれいになくなってしまいました。上司のところへ行き、「会社は辞めます。でも理由が変わりました」と話したら呆れられましたけどね(笑)。
周囲には「2年で店を持つ!」と宣言しましたが、資金もないし、それ以前に、どんなジャンルの店をやるかも考えていない状態(笑)。それでも「夢」を休みたくはなくて、会社をやめた翌日から、すぐにある飲食店の正社員として働き始めたんです。
資金作りのため、18万円の月給のうち13万円を貯金に回したので生活は大変でした。節約のため、親に頭を下げて実家に戻りましたが、すぐに勤務先が遠方になり、ほとんど帰れない状態に。週3日はネット難民みたいにインターネットカフェで寝てました。
そんな状態でも、飲食業界に身を置き、常に自分の夢を公にして多くの人と話すうちに具体的なプランが定まっていったんです。一から飲食業を学ぶには、30近い年齢がハンデだったのは事実。でも、店のシェフと親しくなってパスタを習ったり、働きながらピッツァ作りが学べるアカデミーを活用したりして少しずつ経験を積み、最終的には、そんな中で知り合った料理人と一緒に、2人で店を立ち上げることになったのです。
資金の問題は、親や友人、同僚の協力でなんとかクリア。店の物件を借りるときには、パワーポイントで店のコンセプトをまとめた企画書を作り、不動産屋でプレゼンをして回りました。これには前職の経験が生きましたね。
結局、目標より半年早く店を出せたのですが、お金も人手も本当にギリギリで、オープン当日の口座の残高はたったの5万円。飲食店としては考えられない数字ですよ(笑)。でもその後少しずつ軌道に乗って、今では、自分の手もとに残る月々の利益もサラリーマン時をはるかに超えるようになりました。
僕は、広告にお金をかけて不特定多数の人に店を知ってもらうより、夢を叶えたこの店にいるお客様に楽しんでもらいたいだけなんです。たとえば、お誕生日の方がいればサプライズでバースデーデザートを用意します。

そうすると不思議と他のお客さんにも楽しさが伝わって「また来たいな」と思ってもらえるんですね。同時に「こういう店を僕は作りたいんだ」ということをお客さんに伝えていくことも大切だと思います。お客さんの気持ちをくんで「企画」を考え、しっかり伝える。考えてみれば広告代理店の営業と同じことなんですよね。今はサラリーマン経験があって本当によかったと思います。
今後は、独立を志して一緒に働くスタッフのためにもできるだけ力になっていきたいです。「会社を持ちたい」と考えるサラリーマンは少数派でも、飲食業で「店を持ちたい」という人は多い。そういう人と夢を語り合うのは、本当にエキサイティングですから。












